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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)3095号 判決

主文

一  原判決中控訴人佐藤龍、同石貝哲夫に係る部分及び控訴人(附帯被控訴人)西部タクシー株式会社敗訴部分を取り消す。

二  控訴人佐藤龍は別紙本件交通事故(一)記載の交通事故について、控訴人石貝哲夫は同(二)記載の交通事故について、控訴人(附帯被控訴人)西部タクシー株式会社は同(一)(二)記載の各交通事故について、いずれも被控訴人(附帯控訴人)に対して損害賠償債務を負担していないことを確認する。

三  被控訴人(附帯控訴人)の控訴人(附帯被控訴人)西部タクシー株式会社に対する反訴請求を棄却する。

四  本件附帯控訴を棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴について

1  控訴人佐藤龍(以下「控訴人佐藤」という。)、控訴人石貝哲夫(以下「控訴人石貝」という。)及び控訴人(附帯被控訴人)西部タクシー株式会社(以下「控訴人西部タクシー」という。)

主文第一ないし第三項、第五項と同旨

2  被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)

本件控訴をいずれも棄却する。

二  附帯控訴について

1  被控訴人

(一) 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 控訴人西部タクシーは、被控訴人に対し、四六六万八四三一円及びこれに対する昭和五五年五月一六日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 附帯控訴費用は、控訴人西部タクシーの負担とする。

(四) 仮執行宣言

2  控訴人西部タクシー

主文第四項と同旨

第二主張

一  控訴人らの本訴請求原因

1  控訴人佐藤及び同石貝は、控訴人西部タクシーの運転手として勤務中、それぞれ乗客として被控訴人を同乗させて、別紙本件交通事故(一)、同(二)記載の交通事故(以下「本件交通事故(一)(二)」という。)を発生させた。

2  被控訴人は、本件交通事故(一)について、控訴人佐藤及び同西部タクシーに対し、また、本件交通事故(二)について、控訴人石貝及び同西部タクシーに対し、それぞれ損害賠償債権を有する旨主張している。

しかしながら、控訴人らはいずれも、被控訴人に対し右各債務を負担していないので、それぞれその不存在確認を求める。

二  本訴請求原因に対する被控訴人の認否

すべて認める。

三  被控訴人の本訴抗弁及び反訴請求原因

1  被控訴人は、控訴人佐藤の過失により発生した本件交通事故(一)により、右上腕挫傷、霧視、歯がぐらぐらになる等の傷害を負つた。

2  被控訴人は、控訴人石貝の過失により発生した本件交通事故(二)により、右側顔面打撲、頸部痛、頭痛、著しい眼痛等の傷害を負つた。

3  被控訴人は、本件交通事故(一)(二)に先立ち、別紙先行交通事故記載の交通事故(以下「先行交通事故」という。)に遭い、外傷性頸部症候群の傷害を負つたが、右傷害の治療のための通院の帰途、本件交通事故(一)に遭つて受傷し、更に右各事故による傷害の治療のための通院の途中、本件交通事故(二)に遭つて受傷したものである。この重なる事故によつて既存の症状は悪化し、新しい障害も加わつて被控訴人の傷害は質的にも量的にも著しく拡大され、治療は長引き、損害が増大したもので、先行交通事故以来今日に至るまでの被控訴人の損害は右三個の事故の連続的重畳的結果として一体として評価すべきであり、被控訴人に生じた右全損害は本件交通事故(一)(二)と因果関係があり、控訴人らは共同して右全損害を賠償すべき責任がある。

4  ところで、前項の損害のうち、先行交通事故に係る昭和五六年一〇月まで(ただし、八木病院治療費について同年一一月一八日分まで)に顕在化した損害については、同年一二月四日右事故の発生につき責任を負うべき大塩弘太郎(以下「大塩」という。)との間に一〇六五万三三四〇円で示談が成立しているので、被控訴人は控訴人らに対しそれぞれその後の損害を請求することとし、その金額は次のとおり一二八二万〇六五七円となる。

(一) 治療費 一一二万六三四七円

(1) 八木病院分

昭和五六年一一月一九日から昭和五八年三月四日まで一〇万三五五三円、同月二三日から昭和五九年六月一三日まで九万〇七五〇円、同月二七日から昭和六〇年八月二一日まで七万二九六一円。

(2) たて石眼科分

昭和五六年一〇月二〇日から昭和五七年六月二一日まで二万四一〇七円、同月二二日から昭和五八年八月六日まで三万九九七四円、同月七日から昭和五九年六月一三日まで二万三一九三円、同年四月一八日(診断書代)五〇〇〇円、同年六月一四日から昭和六〇年一一月一六日まで三万五一二七円。

(3) 同眼科医師の指示による村松薬局目薬代

昭和五六年一一月一六日から昭和五八年五月三一日まで一万〇五三二円、昭和五九年六月二七日から昭和六〇年一一月一六日まで四三四六円。

(4) 笠原接骨院

昭和五六年一一月三日から昭和五七年一一月四日まで一七万八六〇〇円、同月五日から昭和五八年一〇月二〇日まで一八万〇四〇〇円、同月二一日から昭和五九年六月二一日まで一二万五二〇〇円、同月四月二〇日(証明書代)二〇〇〇円、同月六月二二日から昭和六〇年一一月三〇日まで二二万六八〇〇円。

(5) 浜松医科大学医学部付属病院(以下「浜松医大附属病院」という。)分昭和五八年六月二九日及び同月三〇日三八〇四円。

(二) 通院費 一五八万二三一〇円

(1) 八木病院までのタクシー代片道一一六〇円の七七往復分一七万八六四〇円。

(2) たて石眼科までのタクシー代片道一〇九〇円の六七往復分一四万六〇六〇円。

(3) 笠原接骨院までのタクシー代片道四六〇円の七八七往復分七二万四〇四〇円、ほかに三九万九四〇〇円。

(4) 浜松医大付属病院までのタクシー代二往復で三六六〇円。

(5) ほかに、八木病院、たて石眼科、村松薬局までのタクシー代一三万〇五一〇円。

(三) 逸失利益 六一一万二〇〇〇円

被控訴人は、本件交通事故(一)当時五六歳で、野田洋品店として自動車を運転して衣料販売の業務に従事し、かつ主婦として家事労働も行つていたが、本件交通事故(一)以後は運転が全くできなくなつたし、本件交通事故(二)以後歩行が著しく困難となつた(もつとも、現在では歩行能力はある程度回復している。)。そこで、同年齢の女子労働者の賃金センサスに基づき、賃金月額を一九万一〇〇〇円として昭和五六年一一月から昭和五九年六月まで三二か月間の逸失利益を計算すると、六一一万二〇〇〇円となる。

(四) 慰謝料 三〇〇万円

被控訴人は、健康な勤労婦人であつたが、本件各交通事故によつて前記の状態となつたほか、あたりが真黒に見えることがあり、眼の症状は当分回復の見込みがなく、笠原接骨院にはほとんど毎日のように通つて治療を受けているが、なおかなりの通院を必要とする状態で、先行きは不安そのものである。しかも、被控訴人は、控訴人西部タクシーの乗客として同控訴人のタクシーに乗車中に本件各交通事故に遭い、同控訴人の従業員に事故の相手方との損害賠償の交渉等を実際上委ねていたのに、突如本訴を提起されたもので、その心の痛手は大きい。これらすべての事情を考慮すれば、本件の慰謝料としては少なくとも三〇〇万円が相当である。

(五) 損害の填補

被控訴人は、控訴人西部タクシーから右損害の内金として一〇〇万円の支払を受けた。

(六) 弁護士費用 一〇〇万円

被控訴人は、本件交通事故(一)(二)の損害賠償問題をすべて控訴人西部タクシーに委ねていたのに突如本訴を提起され、よぎなく本件反訴を被控訴代理人に委任せざるを得なかつたものであり、弁護士費用として上記各損害の合計額の約一割に当たる一〇〇万円を請求する。

5  よつて、控訴人らの被控訴人に対する各債務はいずれも存在するから、控訴人らの本訴請求は失当であり、被控訴人は、反訴として、控訴人西部タクシーに対し、本件交通事故(一)(二)についての損害賠償金一一八二万〇六五七円及びこれに対する本件各交通事故の後の日である昭和五五年五月一六日以降支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

四  本訴抗弁及び反訴請求原因に対する控訴人らの認否

1  本訴抗弁及び反訴請求原因1のうち、被控訴人が本件交通事故(一)により右上腕挫傷の傷害を負つたことは認め、その余の傷害を負つた事実は否認する。右傷害は昭和五四年一二月二九日治癒した。

2  同2のうち、被控訴人が本件交通事故(二)により傷害を負つた事実は否認する。あつたとしても軽度の右側顔面打撲だけで怪我というほどのものではなく、何の治療も受けていない。

3  同3のうち、被控訴人が本件交通事故(一)(二)に先立ち先行交通事故に遭い、外傷性頸部症候群の傷害を負つたことは認め、その余の事実は否認する。被控訴人は、先行交通事故によつて外傷性頸部症候群の傷害を負い、その治療中に本件交通事故(一)に遭つて右上腕挫傷が追加されたが、これは前記のように昭和五四年一二月二九日に治癒し、右両事故を通じての外傷性頸部症候群も昭和五五年二月六日に治癒している。もつとも、その後の同年一二月一八日に内山外科医院から後遺症の診断書が出され、昭和五六年九月一四日には後遺症一四級一〇号の認定がされているが、右後遺症は先行交通事故に起因するものであることが明らかである。

4  同4のうち、被控訴人が被控訴人主張の日大塩との間で示談をしたこと及び(五)の事実は認め、その余の事実は争う。眼の障害はすべて先行交通事故に基づくものであり、八木病院での治療は必要性のないもので被控訴人の神経質な性格によるところが大きく、被控訴人主張の損害は、すべて本件交通事故(一)(二)と因果関係がない。

五  控訴人らの本訴再抗弁及び反訴抗弁

仮に本件交通事故(一)に起因して被控訴人に外傷性頸部症候群が発生し、これが前記のように昭和五五年二月六日に治癒しなかつたとしても、それは前記一四級一〇号の後遺症の認定で評価され尽くしており、右後遺症を含め前記大塩との示談が成立しているのであるから、控訴人らにその支払義務はない。

六  本訴再抗弁及び反訴抗弁に対する被控訴人の認否

前記大塩との示談が一四級一〇号の後遺症を含め成立したものであることは認め、その余の事実は否認する。右後遺症は先行交通事故のみに起因するものである。

第三証拠関係

原審及び当審記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本訴請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本訴抗弁及び反訴請求原因について検討する。

1  本件交通事故(一)が控訴人佐藤の、本件交通事故(二)が控訴人石貝の、それぞれ過失により発生したことは、控訴人らにおいて明らかに争わないので、これを自白したものとみなされる。

2  原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証、第五ないし第七号証、第一一、一二号証、成立に争いのない甲第一七ないし第二〇号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の認められる甲第一三号証、同じく成立の認められる甲第二六号証、原審証人山本福春、当審証人内山昭司の各証言並びに原審における被控訴人本人尋問の結果(いずれも後記措信しない部分を除く。)を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人は、昭和五四年五月六日の先行交通事故により鞭打ち状態となり、その結果外傷性頸部症候群が発生したが(この点は当事者間に争いがない。)、第五、第六頸椎に加齢現象としての軽度の骨棘形成もあつた。被控訴人は、その治療のため、同月二三日から週末を除きほぼ毎日内山外科医院に通院して内山昭司医師の治療を受けていた。

(二)  本件交通事故(一)は、同年一二月一日被控訴人(当時五六歳)が同医院で治療を受けたのち控訴人西部タクシーのタクシー後部座席に乗車して帰宅する途中、時速四〇キロメートル弱の同タクシーとかなりの速度で走行してきた相手車とが交差点で出会いがしらに衝突した(同タクシーはその衝撃によりフロントフエンダー、フロントバンパー等外部が損傷し、その取替え修理等に五万九三一〇円を要した。)もので、被控訴人はその衝撃により右上腕挫傷の傷害を負つた(この事実は当事者間に争いがない。)ほか、鞭打ち状態となり頸部に新たな痛みが生じたが、当日が土曜日で同医院が午後から休診であつたため同日は受診しなかつた。

(三)  被控訴人は、同月三日本件交通事故(一)後として初めて内山医師の診察を受けたが、同医師に対し特に症状についての訴えもせず、同医師のカルテには格別の記載はなく、同医師はそのためレントゲン写真を撮つたことも治療内容に変更を加えたこともなかつた。被控訴人の右上腕挫傷は同月二九日に治癒したが、このための実通院日数は二三日間であつた。

(四)  被控訴人は、本件交通事故(一)に遭つたのちも同月三日以降引き続き同医院に従前と同間隔で通院して同様の治療を受けていたが、内山医師は、控訴人西部タクシーで事故処理を担当していた山本福春より、治療費の負担を自賠責保険から健康保険に切り換えたい旨の依頼を受け、これにカルテの記載を整合させる便宜上、昭和五五年二月六日外傷性頸部症候群について症状固定、治癒の診断をし、同月八日からは前記骨棘形成に起因する変形性頸椎症の病名のもとに、ほぼ同一の治療を従前よりはやや間隔を置いて行つた。

(五)  被控訴人は、右治療期間中、一貫して頭痛、頭重感、頸頂部痛を訴えていたが、先行交通事故以来他覚的所見は認められず、被控訴人には以前から高血圧症の持病があり、日頃不定愁訴が多かつた。そして前記症状も完全に消失するには至らなかつたが、漸次軽快し、昭和五六年四月一四日の段階では、この上治療を加えても効果の上らない状態となり、症状が固定し、同年九月一四日後遺障害一四級一〇号の事前認定を受けた。

右認定に反する前掲内山、山本、被控訴人の各供述の一部及び原審証人八木久男の証言は措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、本件交通事故(一)の態様、被控訴人の受けた衝撃の程度に照らすと、被控訴人の従前の外傷性頸部症候群の症状は、本件交通事故(一)により加重されたものと推認されるが、右外傷性頸部症候群は昭和五六年四月一四日をもつて後遺症である局部の神経症状を残して症状固定したものと認めるべきである。したがつて、被控訴人の右症状固定後における外傷性頸部症候群に関する治療は本件交通事故(一)と相当因果関係のあるものということはできない。また、外傷性頸部症候群の本件交通事故(一)以後における症状は、先行交通事故と本件交通事故(一)との競合により生じたものであるが、両事故は時間的に隔たつてそれぞれ独立に発生したものであるから、その損害発生に寄与した割合に応じて責任を分担すべきであり、その寄与の割合は、先行交通事故七、本件交通事故(一)三と認めるのが相当である。

なお、被控訴人の眼に関する症状と本件交通事故(一)との間に相当因果関係の認められないことは後記のとおりであり、被控訴人の同事故によつて歯に損傷を受けた旨の供述は、これを裏付ける的確な証拠がなく、にわかに措信することができない。

3  前掲甲第一九号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の認められる甲第一四号証、同じく成立の認められる甲第一五号証、前記山本証言により真正に成立したものと認められる甲第一六号証、前記山本、内山各証言並びに右被控訴人の供述(後記措信しない部分を除く。)を総合すると、本件交通事故(二)は、昭和五五年五月一五日被控訴人が内山外科医院へ通院するため控訴人西部タクシーのタクシー後部座席に乗車中、交差点で右折するため一時停車中の同タクシーに、時速四〇キロメートルで直進してきた相手車が接触した(その結果、同タクシーは右フロントフエンダー、フロントスカート、フロントグリル等外部を損傷し、その取替え修理等に三万一八〇〇円を要した。)もので、接触による衝撃が小さかつたため、被控訴人は右顔面を打撲したもののそれによる負傷は見受けられず、各車両の損傷も保険金の請求をするまでのことはなかつたところから、双方車両保有者間に、警察に申告せず車は各自己負担で修理する旨の合意がされたこと、被控訴人は同日事故後にも内山医師の診察を受けているが、同日はもとよりその後においても事故による影響について同医師に格別の訴えをしておらず、同医師もそのための検査、治療等をしていないことが認められる。右事実によれば、本件交通事故(二)により被控訴人に右顔面打撲傷、頸部痛、頭痛等の傷害が発生し若しくは加重されたとは認められず、右認定に反する被控訴人の供述の一部は措信することができない。

4  ところで 、前掲甲第一七号証、成立に争いのない甲第二四号証、当審における鑑定(鑑定人新家真)の結果及び原審証人健石忠彦の証言を総合すると、被控訴人は、内山外科医院において先行交通事故に基づく傷害の治療中の昭和五四年一一月三〇日ころから内山医師に視力の減退を訴え、本件交通事故(一)後の昭和五五年一月四日からたて石眼科で治療を受けているが、同年六月三〇日前の症状は近視、睫毛乱生、老視、び慢性表層角膜炎によるもので、本件交通事故(一)(二)との因果関係はないこと、被控訴人には右同日以降、器質的病変からは説明の極めて困難な自覚的視力値の低下(殊に遠方視時の矯正視力が近方視時の矯正視力の半分以下となる。)の発生したことが認められる。この自覚的視力値の低下は、その発生の時期からみて本件交通事故(一)と相当因果関係があるものとは認められず、また、本件交通事故(二)についても、右症状は器質的病変からの説明が極めて困難であり、心因性のものとしても、同事故は衝撃が小さく前示のとおり被控訴人に傷害が発生しなかつたのであるから、これと相当因果関係があるものとは認められない。

よつて、被控訴人が本件交通事故(二)により負傷した事実は認めるに足りない。

5  そこで、本件交通事故(一)により被控訴人の被つた損害について検討する。

(一)  被控訴人請求に係る治療費及び通院費はいずれも昭和五六年一〇月以降の分であり、本件交通事故(一)と相当因果関係のある損害と認められないことは、前示のとおりである。

(二)  被控訴人の外傷性頸部症候群の傷害は昭和五六年四月一四日症状固定し、後遺症が発生したことは、前示のとおりであるが、前示認定の傷害及び後遺症の部位程度等に照らすと、被控訴人は右症状固定時から三年にわたり、その労働能力の五パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。ところで、前記被控訴人の供述によれば、被控訴人は、先行交通事故に遭う前は夫と共に衣料品販売業を営み、自ら自動車を運転して販売等に従事する傍ら、主婦として家事に従事していたことが認められ、少なくとも同年齢の女子労働者の平均収入程度の収入は得られたものと推定されるから、賃金センサス昭和五六年第一巻第一表全国産業計企業規模計学歴計五五歳から五九歳までの女子労働者の平均月間給与額一七万五四〇八円を基準として、被控訴人の昭和五六年一一月一日以降の逸失利益を計算すると、二五万八七二六円(一七万五四〇八円×(三六-六・五)×〇・〇五)を超えることはなく(すなわち、逸失利益については本来中間利息を控除すべきであるが、右控除は後示の控訴人西部タクシーの内払いによる右損害賠償債権消滅の効果には影響がないから、具体的な判示を省略する。)、このうち控訴人西部タクシー、同佐藤の負担すべき金額はその三割に当たる七万七六一七円となる。

(三)  前示認定の被控訴人の負傷した経緯、状況、各傷害の程度、通院期間、後遺症、控訴人西部タクシー、同佐藤の外傷性頸部症候群についての負担割合、その他本件記録に顕れた一切の事情を考慮すると、右控訴人両名が被控訴人を慰謝すべき金額としては、七〇万円をもつて相当と思料する。

三  以上によれば、控訴人西部タクシー及び同佐藤は、被控訴人に対し、損害賠償金として各自七七万七六一七円を超えない金額及びこれに対する本件交通事故(一)の後の日である昭和五五年五月一六日以降支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるところ、被控訴人が控訴人西部タクシーから一〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、右は本件交通事故(一)の損害賠償の内払いとして昭和五七年一二月一三日ころ支払われたことが認められるので、被控訴人の右損害賠償債権は右時点で消滅したことになる。

四  よつて、原判決中これとその趣旨を異にする控訴人佐藤、同石貝に係る部分及び控訴人西部タクシーの敗訴部分を取り消し、控訴人らの本訴請求を認容し、被控訴人の控訴人西部タクシーに対する反訴請求を棄却し、本件附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 丹野達 加茂紀久男 河合治夫)

本件交通事故(一)

発生日時 昭和五四年一二月一日午後〇時一五分ころ

発生場所 浜松市有玉南町一四一三番地先交差点

事故態様 控訴人佐藤が、控訴人西部タクシー所有の普通乗用自動車に被控訴人を同乗させて運転中、鈴木貴久運転の普通乗用自動車と出会いがしらに衝突した。

本件交通事故(二)

発生日時 昭和五五年五月一五日午後三時三五分ころ

発生場所 浜松市有玉西町二四一四番地の一三先交差点

事故態様 控訴人石貝が、控訴人西部タクシー所有の普通乗用自動車に被控訴人を同乗させて運転中、同車側面に大石英夫運転の普通乗用自動車に衝突された。

先行交通事故

発生日時 昭和五四年五月六日午後四時一五分ころ

発生場所 浜松市館山寺町三〇四番地の四七八

事故態様 大塩弘太郎運転の普通乗用自動車が、停止中の被控訴人運転の普通貨物自動車に追突した。

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